「思考の整理学」
外山滋比古・著
ちくま文庫刊
「思う」と「考える」について。一見同じようなこの二つの言葉には大きな違いがある。「思う」は主観的・感情的な心の動きや、瞬間的な判断を示すのに用いる言葉。また「考える」は客観的に判断することを示す言葉である。
本書はその二つを合わせた言葉「思考」について、著者の経験を元にして書かれた本である。思考の整理学というと、その方法について教えてくれるハウツー本「~したいなら~をしろ!」というような強制的な内容に思われるが、そのたぐいの本でない。センテンスも短く、わかり易い内容になっているがそこには直接的な答えが書いてあるわけではなく、著者の体験や感じたことをエッセイの様な形で書かれている。よって本書はあくまで「思考の整理」をする為のヒントとして読む本である。
特に印象深かったのは「時の試練」の章。作品やアイデアは時間の持つ風化作用を潜り抜ける必要があり、時の試練を受けてなお残るものにこそ真の価値が認められる。この風化作用とは「忘却」にほかならず、思考の整理はいかに自発的に風化作用を起こすか=うまく忘れるかが大切だという。何でも覚えることが大事と教わってきた者にとって、これは衝撃である。
また「見つめる鍋は煮えない」では、アイデアは長い時間をかければいいというものではなく良いアイデアはひらめいた時に書き留め、一旦頭から外して寝かせる。そして時間をかけた後には更に良い思考が生まれてくるといった所などは日頃考えすぎる所がある私にとっては是非試して見たい方法である。
本書の初版はさかのぼること1983年、それから実に30年たった今でも売れ続けている。その数200万部。それは本書が「ものを考える」という事に対する理解をよりいっそう深める確実な1冊であるということに他ならない。