「重耳」全3巻
宮城谷昌光著
講談社文庫
若い頃から好きだった歴史小説。司馬遼太郎や吉川英治などを読みあさり、そろそろ新しい作家をと探していた時に巡りあったのが宮城谷昌光氏。
氏の作品の舞台は古代中国が多く、日本でいえば「縄文・弥生時代」にあたる。中国の歴史の知識といえば秦の始皇帝の時代ぐらいまでで、あまりなじみもなくイメージも湧かなかった。ところが、読み始めた途端ページをめくる手が止まらず、気付いた時にはほとんどの作品を読破してしまっていた。その中のお気に入りの1つがこの「重耳」である。
晋の国の公子として何不自由ない時を過ごしていた「重耳」。ある日突然、父の寵姫の謀略により亡命を余儀なくされる。その時重耳43才。そしてそれは実に19年にも及ぶ流浪の旅の始まりとなるのである。裏切り、暗殺の恐怖、そして行く先々での度重なる屈辱に耐えながらもついに62歳で君主となり、春秋時代の覇者として古代中国の中で最高の名君のひとりと言われるまでになる物語である。
著者は、主人公のみを描くことに終始することはない。祖父を描き、父を描く。またその都度描かれる時代背景等の解説は、主人公が生きた時代の理解をより深めてくれる。
この本は私にとっては単なる歴史小説ではない。登場人物から出される言葉の一つ一つが心にしみてくる、どのビジネス書にも勝る自己啓発書である。