幻燈辻馬車/山田風太郎 著
上巻:9784041356616(本体742円+税)/下巻:9784041356623(本体628円+税)
角川書店
来る10月24日、25日は第五次「米子映画事変」。
米子、映画、といえば、米子出身の映画監督・(故)岡本喜八氏。 『幻燈辻馬車』は、その喜八監督が亡くなる直前まで手がけていた作品の原作です。 舞台は明治十五年。士族の反乱にも西南戦争でピリオドが打たれ、自由民権運動が盛んになりだした頃。
主人公の干潟干兵衛は幕末から戊辰戦争、西南戦争までを戦い抜いてきた老人で、今は古びた辻馬車に様々な人物を乗せて生計をたてている。 ともに辻馬車に乗るのは孫娘のお雛。西南戦争で死んだ干兵衛の息子・蔵太郎の娘だ。
川上音二郎や三遊亭円朝ら、辻馬車に乗ったり乗らなかったりする時代の著名人たちの豪華な顔ぶれ、彼らがもたらす波乱。危機が迫ると、お雛は叫ぶ。 「父(とと)、父!」 その声に応じて、死んだはずの蔵太郎(血塗れ+帯刀)が本当に出現してしまう(さらに、蔵太郎が呼ぶと戊辰戦争で死んだ母の幽霊まで……)のが、この小説の特色であり、見所です。
開化の時代に幽霊が出てきて、生きている人間を翻弄するのは可笑しいのですが、幽霊たちは時代が変わっても完全に振り切ることの出来ない旧時代の恨みや悲哀であるようにも見えて、ちょっと考えてしまったりも。
ほの暗く妖しく絢爛な、まさに「幻燈」を思わせるこの物語の映像化が頓挫してしまったことが、残念でたまりません。